省エネ効果が高いと聞いて、家を建てる際にZEH住宅を検討している人が増えています。
ZEH住宅にメリットがあるのは知っていても、どのようなデメリットがあるのか知らない方も多いのではないでしょうか?
そのような方のために、この記事ではZEHのメリットとデメリットについて分かりやすく解説します。
ZEHの設備の具体例や注文する際に注意するべきことなども解説しているため、ZEH住宅を検討している方はぜひ参考にしてください。
- ZEHとは何か
- ZEHの基準と種類
- ZEHの設備
- ZEH住宅を注文する際に気を付けること
- ZEHのメリットとデメリット
ZEHを分かりやすくいうと?
ZEH(ゼッチ)とは「net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略称で、エネルギー収支を実質ゼロ以下にする家です。
分かりやすくいうと、「使うエネルギー量よりも創るエネルギー量の方が多い家」と表せます。
ZEHでは住宅の断熱性を高め、省エネ効果の高い設備を導入して消費するエネルギーを減らし、太陽光発電によりエネルギーを作り出します。そのため、使うエネルギー量よりも創るエネルギー量の方が多くなり、1年間で消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にできるのです。
また、エネルギー収支を実質ゼロ以下にすると、地球温暖化対策にもなります。なぜなら、地球温暖化の原因になる温室効果ガスのCO2の削減に貢献できるからです。
日本では電気エネルギーを作る際に化石燃料を多く使っています。化石燃料を使った火力発電はCO2を排出するため、使うエネルギー量を減らせれば発電量が減り、CO2の削減ができます。
また、太陽光発電はCO2を排出せずに電気エネルギーを作れるため、ZEHはCO2の排出量を実質ゼロにする脱炭素社会を目指すうえで重要だといえるでしょう。
ZEHは脱炭素社会に向けて、標準になるべき新しい家だと注目されており、日本政府は「エネルギー基本計画」で、「2030年までに新築住宅の平均でZEHを目指す」という目標を掲げています。(参照1)
ZEHを実現する方法は?
ZEHを実現するには使うエネルギーをできるだけ減らしながら、自宅でエネルギーを作る必要があります。具体的には以下の3つを備えた家がZEH住宅とされます。
- 住宅の断熱性を高くする
- 住宅を省エネ設計にする
- 太陽光パネルで自家発電をする
それぞれ分かりやすく説明していきますね。
①住宅の断熱性能を高くする
ZEHと認められるには、住宅の断熱性能を国が定めた基準より高める必要があります。断熱性能とは室内外に熱を伝えにくくする性能です。
建物に断熱材や断熱性の高い窓ガラスなどを取り入れることで断熱性能を高められます。住宅の断熱性能を高めると、夏は外気の熱が室内に伝わりにくくなるため涼しくなり、冬は室内の熱が外に逃げにくくなるため暖かくなります。
そのため、冷暖房をより効率的に使えるようになり、省エネにつながるでしょう。冷暖房は電気使用量が多い家電の一つなので、電気代の節約にもなりますよ。
環境省の令和3年度の調査では、年間エネルギー使用用途別に世帯当たりのCO2排出量を見ると、冷暖房が全体の24. 5%を占めています。(参照2)
このデータから、自宅で使うエネルギーを減らすには冷暖房の効率化が重要だといえます。
②住宅を省エネ設計にする
ZEHを実現するには住宅を省エネ設計にする必要があります。具体的には「暖冷房、換気、給湯、照明」の4項目で国が定めた基準一次エネルギー消費量を20%以上削減しなくてはいけません。
基準一次エネルギー消費量って何?
基準一次エネルギー消費量とは、家1棟で使うと想定される1年間のエネルギーのことで床面積や建築する地域などによって基準が変わってきます。
例えば、寒い地域であれば暖かい地域よりも暖房を多く使うため、暖房設備の基準一次エネルギー消費量は高く設定されます。
基準一次エネルギー消費量から20%以上も削減するには、「暖冷房、換気、給湯、照明」などの機器は省エネ性能の高いものを選ぶ必要があるでしょう。
また、HEMSを導入すると家庭内の電気利用を最適化できるためおすすめです。HEMSは自動で家庭内の各機器のエネルギー消費を制御し、個別の電気利用状況を見える化するため、効率的に省エネ対策を行えます。
ZEHの実現には、省エネ性能の高い機器やHEMSを取り入れて、効率的にエネルギー消費を減らしていくことが重要です。
③太陽光パネルで自家発電をする
太陽光発電のような再生可能エネルギーの導入が、ZEHの実現には必要です。エネルギー収支を実質ゼロ以下にするには自宅でエネルギーを作らなくてはならないため、太陽光パネルを家の屋根や敷地内に設置することが重要になります。
太陽光発電は再生可能エネルギーといわれるCO2を排出しない発電方法です。電力会社から購入する電気は化石燃料を使った火力発電によるものが多く、電気を作る過程でCO2を排出しています。
太陽光発電によって家庭の電気をまかなうことでCO2の削減に貢献できるため、ZEHでは太陽光パネルで自家発電をするのが望ましいです。
ZEHの設備の具体例
ZEH住宅にはどのような設備を導入するとよいのか気になりますよね。どのような設備があるか、具体例を下の表から見てみましょう。
【ZEHの設備の具体例】
設備 | 特徴 |
太陽光パネル | 太陽光発電で再生可能エネルギーから電気を作れる太陽電池 |
HEMS | 家庭のエネルギー利用状況を見える化する機器 |
蓄電池 | 太陽光発電で作った電気や電力会社で購入した電気を貯める機器 |
LED照明 | 光る半導体を使った、消費電力が低く寿命が長い照明 |
高効率エアコン | 空気の熱を利用するため、少ない電気で暖房が使える省エネ効果の高いエアコン |
電気ヒートポンプ給湯機 | 大気の熱を利用するため、少ない電気でお湯を沸かせる給油機 |
ZEH住宅はこのような設備を導入して省エネ効果を高めています。他にも空調設備やEV(電気自動車)、V2H(EVと家の間で電気を橋渡しする機器)など様々な設備がありますが、全ての設備を導入する義務はありません。
ただ、ZEHを実現するにはより多くの設備を導入した方がよいです。ZEH住宅を注文する際には、予算やライフスタイルに合わせてどの設備を選ぶのか検討しましょう。
ZEH住宅は意味がないという意見があるのはなぜ?
日本政府も推奨しているZEH住宅ですが、「ZEHは意味がない」や「ZEHにして後悔した」という意見も少なからず存在します。しかし、ZEH住宅は省エネ性能が高く、環境に優しいため意味がないことはないです。
意味がないという意見がある理由としては、正しく理解しないでZEH住宅を注文していることが考えられます。
ZEH住宅を注文して後悔しないように、以下の2つを理解しておく必要があります。
- 光熱費が必ずゼロになるわけではない
- 節電効果を実感できないことがある
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①光熱費が必ずゼロになるわけではない
ZEHはエネルギー収支を実質ゼロ以下にしますが、光熱費が必ずゼロになるわけではないです。
使うエネルギーよりも創るエネルギーの方が多いなら、電力会社から電気を買わなくてもいいのでは?
実はZEHの基準にテレビや電子レンジなどの家電製品が消費する電気エネルギーは含まれていません。暖冷房、換気、給湯、照明に関わるエネルギー消費量だけ創るエネルギーがあればよいのです。
実際には、太陽光発電によりZEHの基準に関わる一部の電気は賄えても、全ての電気は賄えません。そのため、光熱費が必ずゼロにはならないのです。
光熱費がゼロにはなりませんが、電気消費量の多い冷暖房や照明の省エネ効果や、太陽光発電による電気代の節約効果はあります。
省エネ設計と太陽光発電により電力会社から購入する電気が減り、余剰電力は売電することも可能なため、ZEHは経済的にも環境にもよいです。
ZEH住宅にすると、今よりも光熱費とCO2排出量を削減できると考えましょう。
②節電効果を実感できないことがある
住宅の日当たりや気密性を考慮しないと、ZEH住宅でも節電効果を実感できないことがあります。
近くに高層マンションが建っていたり、日射量の少ない地域だったりすると、太陽光パネルの発電量が思ったよりも少なくなってしまいます。
断熱性が高い住宅でも気密性も高くなければ、隙間風が入ってきて効果が薄くなることもあるでしょう。
そのため、ZEH住宅を注文する際には周りの環境や家の気密性にも注意してください。
太陽光パネルで思うような発電量が得られるのか、事前に各メーカーでシミュレーションしてもらうのがおすすめですよ。
また、ZEH住宅だからといって油断して電気を無駄遣いしないように、HEMSでエネルギーの利用状況を適切に管理しましょう。
ZEH住宅のメリットは?
日本ではZEHの義務化案もあり、これから必要不可欠な存在になる可能性があります。そのため、ZEH住宅のメリット・デメリットを正しく理解することが重要です。
まずは、以下の3つのメリットを解説します。
- 脱炭素社会の実現に貢献できる
- 電気代の節約ができる
- 補助金が使える
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①脱炭素社会の実現に貢献できる
ZEHは家のエネルギー収支を実質ゼロ以下にするため、脱炭素社会の実現に貢献できます。
脱炭素社会とはCO2排出量が実質ゼロを実現した社会で、日本では「2050年までに脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しています。(参照3)
なぜ、脱炭素社会を目指す必要があるのかというと、地球温暖化を抑えるためにCO2を削減しなくてはいけないからです。
地球温暖化は地球環境や私たちの生活に深刻な被害を与えるもので、CO2を含む温室効果ガスによって進行します。
そのため、地球温暖化を抑制するには、CO2の排出量を減らし、脱炭素社会を目指す必要があるのです。
令和3年度の環境省のデータによると、家庭部門ではエネルギー種別で電気によるCO2排出量が7割を占めており、1世帯が1年間で約1.82tものCO2を排出しています。(参照4)
用途別にみると、冷暖房の24.5%と給湯の24.8%でCO2排出量の半分近くを占めています。
ZEHでは冷暖房と給湯で消費するエネルギーを削減でき、太陽光発電によりCO2を排出しない電気を作り出せるため、脱炭素社会の実現に貢献できるのです。
参照3:2050年カーボンニュートラルを見据えた2030年に向けたエネルギー政策の在り方 資源エネルギー庁
参照4:家庭部門のCO2排出実態統計調査 環境省
②電気代の節約ができる
ZEHは冷暖房や照明の消費エネルギーを削減でき、太陽光発電により電気を賄えるため、電気代の節約になります。
高断熱の住宅なので、夏は室内に熱が伝わりにくく、冬は室内から熱が逃げにくいです。そのため、一般の住宅に比べて、冷暖房を使わずに生活ができます。
冷暖房は消費電力の多い家電製品のため、使用量を減らせると節約効果が高いです。
HEMSを導入していると、冷暖房を含めた様々な機器の電気利用を最適化できるため、さらに電気代を節約できるでしょう。
また、太陽光パネルで発電した電気は無料で使えます。家庭内の電気を太陽光発電で賄えた分だけ、電力会社から電気を買わなくて済み、余剰電力は売電できるためお得です。
電気代を減らせる量は地域や太陽光パネルの発電力、家の立地、屋根の向きなどで変わってくるため、ZEH住宅を建てる際には専門業者とよく相談して決めましょう。
③補助金が使える
ZEHには国と地方自治体に補助金制度があり、補助金を使うことで初期費用を抑えられます。ZEHの補助金は様々な種類があり、併用可能な制度もあります。
2024年度の国と地方自治体のZEHを対象とした補助金制度をいくつか下の表にまとめましたので、参考にしてください。
【ZEHの補助金制度】
行政機関 | 補助金の名称 | 補助金額 |
国土交通省 | 子育てエコホーム支援事業(参照5) | 80万円 ※以下の①かつ②に該当する場合は40万円 ①市街化調整区域 ②土砂災害警戒区域又は浸水想定区域 |
環境省・経済産業省 | 戸建住宅ZEH化等支援事業(参照6) | ZEH:55万円 ZEH+:100万円 |
神奈川県 | 令和6年度神奈川県ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス導入費補助金(参照7) | ZEH+(Nearly含む):100万円 ZEH(Nearly含む):55万円 ZEH Oriented:50万円 |
さいたま市 | 令和6年度「スマートホーム推進・創って減らす」機器設置補助金(参照8) | 20万円 |
ZEHの補助金は国だけでなく都道府県や市区町村などの様々な行政機関が用意しています。併用して使える補助金制度もあるため、ZEH住宅の注文を考えている方は、お住いの地域の自治体に補助金がないかを確認しましょう。
申請期間や補助金の予算額は決まっており、補助金を活用するには早めに準備をすることが大切です。
参照5:子育てエコホーム支援事業 国土交通省
参照6:令和6年度環境省戸建ZEH 一般社団法人環境共創イニシアチブ
参照7:令和6年度神奈川県ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス導入費補助金 神奈川県
参照8:令和6年度「スマートホーム推進・創って減らす」機器設置補助金 さいたま市役所
ZEH住宅のデメリットは?
ZEH住宅のデメリットは主に以下の3つです。
- 設置コストが高い
- 管理やメンテナンスが必要になる
- 家のデザインが制限されることがある
それぞれ詳しく解説していきます。
①設置コストが高い
ZEH住宅に必要な設備は設置コストが高いため、初期費用が多くかかります。
たとえば、太陽光発電に必要な太陽光パネルの導入費用は100万円以上です。
断熱性能を高める断熱材や省エネ設備も導入するため、ZEH住宅を新築する際の坪単価は80万円前後が目安になります。一般的な住宅の坪単価は約40万〜60万円といわれており、比較してみると設備コストの高さがうかがえます。
ただ、ZEH住宅は国や地方自治体の補助金を活用すれば初期費用が抑えられ、電気代の節約にもなるため、長期的に見ると一般的な住宅よりも費用対効果が高いといえるでしょう。
②管理やメンテナンスが必要になる
ZEH住宅の省エネ設備や太陽光パネルには定期的なメンテナンスが必要です。太陽光パネルのメンテナンスは設置後1年目と、その後の4年に1度のペースで行うのが望ましいです。
点検には数万円の費用がかかり、部品の取り換えが必要になる場合もあります。このような維持費や修繕費がかかることを念頭に入れて計画をたてましょう。
また、省エネ効果を高めるためにはエネルギーの利用状況を管理しなくてはいけません。そのために、HEMSの設定や使用方法を覚える必要があります。
システムの操作や見方に不安がある場合は、事前に専門販売店や家電量販店で詳しい話を聞くことがおすすめですよ。
③家のデザインが制限されることがある
ZEH住宅は高い断熱性や省エネ効果を実現しなくてはいけないため、家のデザインが制限されることがあります。
たとえば、断熱性は窓を減らしたり、壁を増やしたりして高めるため、大きくて開放感のある窓や吹き抜けを作れないことがあります。
また、屋根に太陽光パネルを設置するため、耐震性の高い設計にしなくてはいけません。
理想の家のデザインがある方は、ZEHの建設実績が豊富な建築会社へ相談するのがおすすめです。
ZEHとあなたの理想のデザインを両方とも実現できる可能性が高まります。
太陽光発電なしのZEH住宅はある?
ZEHの定義では太陽光発電は必須ではないです。そのため、太陽光発電なしでもZEH住宅として認められるケースもあります。
現在、日本にある6種類のZEH認定を以下の表に簡単にまとめました。
【ZEHの種類】
名称 | エネルギーの要件 | その他の要件 |
ZEH(ゼッチ) | 一次エネルギー消費量削減率20%以上 再生エネルギー等を含む省エネ率100%以上 | 再生可能エネルギーの導入 |
ZEH+ | 一次エネルギー消費量削減率25%以上 再生エネルギー等を含む省エネ率100%以上 | 再生可能エネルギーの導入に加え、以下のうち2つ以上を満たす ①外皮性能強化(地域により変動) ②HEMSにより住宅内の冷暖房。給湯設備を制御可能 ③V2Hの導入もしくは太陽光発電とEVの連携 |
次世代ZEH+ | 一次エネルギー消費量削減率25%以上 再生エネルギー等を含む省エネ率100%以上 | ZEH+の要件に加え、以下のうち1つ以上を導入する ①蓄電システム ②V2H ③燃料電池 ④太陽熱利用温水システム ⑤太陽光発電システム |
Nearly ZEH(ニアリーゼッチ) | 一次エネルギー消費量削減率20%以上 再生エネルギー等を含む省エネ率75%以上 | 再生可能エネルギーの導入 |
Nearly ZEH+ | 一次エネルギー消費量削減率25%以上 再生エネルギー等を含む省エネ率75%以上 | 再生可能エネルギーの導入に加え、以下のうち2つ以上を満たす ①外皮性能強化(地域により変動) ②HEMSにより住宅内の冷暖房。給湯設備を制御可能 ③V2Hの導入もしくは太陽光発電とEVの連携 |
ZEH Oriented(ゼッチオリエンテッド) | 一次エネルギー消費量削減率20%以上 | 多雪地域や都市部狭小地等に限る |
ZEHは主にエネルギーをどれだけ削減できるかと省エネ機器を導入しているかによって種類が変わります。
この中で、太陽光発電なしで認定を受けられる可能性があるのはZEH Orientedです。都市部の土地が狭い地域や多雪地域を対象とし、断熱性能と省エネ効果の高い住宅であれば認定を受けられます。
建物の立地や構造上の問題で、太陽光パネルを導入するのが難しい場合は、ZEH Orienteを目指すのも選択肢の一つです。
ただし、太陽光発電をするメリットは大きいため、より高い性能のZEH住宅を目指せる場合は太陽光パネルの設置を積極的に検討しましょう。
ZEH住宅を建てるならメリット・デメリットを把握しよう
ZEH住宅は脱炭素社会を目指すうえで、欠かせない存在です。省エネ、創エネによりCO2の削減に貢献できます。
また、ZEHは環境面だけでなく私たちの経済面にもメリットがあります。省エネ効果で家庭の消費電力を減らしながら、太陽光発電によって無料の電気を作ることで、電気代の節約が可能です。
設置コストが高く維持費もかかりますが、補助金により初期費用を抑えられ、電気代の節約もできるため、長期的に見れば費用対効果は高いといえるでしょう。
ZEH住宅にしてよかったと思えるように、メリット・デメリットを正しく把握して、計画をたててくださいね。