VPP(仮想発電所)の先進国であるアメリカにおいて、現在、最も大きな存在となっているVPPのひとつが、Google社が主導するGoogle Nest Renew(Renew Home)です。
アメリカのVPP市場においては、前回の記事で紹介した「Sunrun社」も非常に大きな存在感を持っています。しかし、Sunrun社のVPPでは消費者が太陽光パネルや家庭用蓄電池などの設備を持っていることが必須なのに対し、Google Nest Renewの事例はまったくアプローチが異なります。
Google Nest Renewは、太陽光設備と蓄電池を使ってVPPに参加するのではなく、日常的に使っているスマート家電(エアコンなど)から参加するVPPです。
本記事では、このGoogle Nest Renewが生まれたきっかけ、そのビジネススキーム、実績、そして「なぜGoogleが電力インフラを握ろうとしているのか?」というGoogleの真の狙いについて詳しく解説します。
前回の記事「VPP(仮想発電所)の海外事例①アメリカの一般家庭に広がる理由」で紹介した事例とも対照的なビジネスモデルとなっていますので、ぜひ記事を読み比べてみてください。
いま世界がどのようにエネルギーの課題を乗り越えようとしているのかという「大きな時代の動き」と、その中でVPPの価値がどのように変わっていくかを考えるきっかけになれば幸いです。
Google Nest Renewが生まれたきっかけ
現在「Renew Home」(リニューホーム)という名称で展開されているこのプロジェクトは、2024年にGoogle(Google Nest Renew・グーグルネストリニュー)と、家庭向け節電サービスの先駆者であるベンチャー企業「OhmConnect(オームコネクト)」が統合して誕生しました。
前身であるOhmConnectは、2014年頃にカリフォルニアで創業した企業です。 当初提供していたのは、「電力需要が逼迫する時間帯にスマートフォンへ通知を送り、ユーザーが手動で家の電気を消して節電に協力すると、報酬としてポイントが付与される」というサービスでした。
パッと聞いただけだと、どんなサービスかよくわからないな
図解すると以下のようなサービスです。

読者ゲームアプリで遊ぶ感覚で節電すると、現金化できるポイントがもらえるんだね



現在は日本でもエコ電気アプリ(ソフトバンク)などの同様のアプリがありますね
その後、OhmConnectはスマートプラグ(遠隔で電源を操作できるコンセント)などをユーザーに配布して一部の家電制御の自動化を進め、数十万人規模の顧客ネットワークを構築していくという実績を積んでいきました。
そして大きな転機となったのが、Googleとの統合です。
Googleは当時、すでにAI搭載のスマート空調管理デバイス「Google Nest(グーグル・ネスト)」を展開しており、アメリカ国内だけでも数百万件以上の家庭にこのデバイスが設置されていました。
これにより、新たなハードウェアの追加工事を行うことなく、すでに各家庭にある数百万台のスマート家電をネットワーク化することが可能になり、現在の広範なVPPへと成長したのです。
参照:OhmConnect、lightreading.com
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Google Nest RenewのVPPの参加方法
Google Nest Renewを利用するにはGoogle Nest(一般名称はスマートサーモスタットといわれるもの)などの対象機器を持っている必要があります。その上で、専用のスマートフォンアプリをダウンロードし、以下の連携を行うだけで登録は完了します。
セットアップが完了すれば、あとは日常生活を送るだけです。
電力需給が逼迫する時間帯(ピーク時)になると、システムが連携されたスマート家電を自動で一時的に制御(節電)します。
この節電実績に応じ、アプリ内には自動的にポイントが貯まっていきます。
貯まったポイントは、現金(PayPal経由)、Amazonギフト券、スマート家電の割引クーポンなどに交換できます。
ただし、家庭内にあるすべての家電製品が、このVPPシステムの制御対象になるわけではありません。Renew Homeが対象としているのは、主に以下のような家電です。
スマートサーモスタット(エアコン・空調)、EV(電気自動車)の充電器など
対象機器は「数十分程度運転を停止、または出力を落としても、人間の生活に大きな支障が出にくい」家電です。
例えば、エアコンであれば設定温度を自動で数度調整する、EV充電であれば充電速度を一時的に落とす、といった制御が行われても、利用者は気が付きませんので、快適性や利便性への影響は最小限に抑えられます。



電力業界では、このように需要(消費)のタイミングを柔軟にずらせる負荷を「シフト可能な負荷(Shiftable Load)」と呼び、VPPにおいて非常に価値の高いリソースとされています。
一方で、以下のような機器は対象外となります。
テレビ、電子レンジ、IHヒーター、医療機器など
料理中にIHの温度が下がったり、テレビが突然消えたりすることは、ユーザーの利便性を著しく損なうため、自動制御には向きません。また医療機器は当然ながらVPPの制御対象からは完全に除外されています。
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VPPとDR(デマンドレスポンス)はどう違うの?
Google Nest Renewのシステムは「エコ電気アプリ」などの節電アプリと同じもののように思えるかもしれません。
電力業界では、こうした消費者側の需要を調整する仕組みを専門的に「デマンドレスポンス(DR)」と呼んでいます。
では、「節電アプリ(DR)」と「仮想発電所(VPP)」の違いはどこにあるのでしょうか。
それは一言でいうと「規模の違い」です。
Google Nest Renewが各ユーザーから少しづつ集めた電力は、全体で約3ギガワットにもなり、これは大型の原子力発電所 約3基分に匹敵します。
電力業界では、このように節電された電気も、新しく発電したのと同じ価値を持ちます。
そして、このような電気をネガワットと呼びます。Renew Home社は、この数百万人のネガワットを束ねることで、卸電力市場で「これは火力発電所が電気を作ったのと同じ価値がある」として高値で売り捌いています。



消費者にとっては「ポイ活」や「節電」であっても、電力市場というビジネスの場では立派な「発電所」と同じ立場だからVPP(仮想発電所)と見なされているんだね
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Google Nest Renewでなぜものすごい量の電力が集まるの?
なぜGoogle Nest Renewでは発電所に匹敵するような電気量が集められるのでしょうか?
専門的な説明をすべて理解しようとすると、電気や電力市場のさまざまな知識が必要になります。
ここでは、ポイントだけをかいつまんで解説しますが、少しでも仕組みを知っておくとよりVPPのすごさがわかると思います。
AIが自動で最適な制御をおこなう
例を挙げてみていきましょう。
まずGoogle Nest RenewのAIが「今日の午後3時に電力が逼迫する」と予測したとします。
すると、電力に余裕がある午後2時のうちに部屋を少し強めに冷やしておきます。そして午後3時になったら、エアコンの出力を下げます(設定温度を1〜2度上げます。)



部屋はすでに冷えているので、住人は全く気付きません。
ちなみに「今日の午後の3時」という例を上げましたが、AIはこれを24時間休まずに行っています。たとえば、「電力網(グリッド)から『今すぐ電力を減らして!』という指令が出た場合、AIは秒単位(1秒後)にはその指令を送ることができます。
次に、注目すべきなのは、Google Nest RenewのAIは数百万台のエアコンをグループに分けて管理しているところです。
たとえばエアコンを10万台づつにグループ分けされていたとしましょう。
その場合「Aグループの10万台は最初の5分間コンプレッサー(室外機)を休ませる」「次の5分間はBグループの10万台を休ませる」というように、ローテーションさせる指示を出していきます。
各家庭のエアコンが休むのはほんの数分なので室温は0.1度も変わりませんが、電力網全体から見ると「常に何十万台ものエアコンが完全に停止している」のと同じ強烈な節電効果が生まれます。



利用者が気が付かないレベルの「エアコンの温度設定切り替え」なんだね
数百万台のエアコンの節電が発電所に匹敵する電力になる
アメリカの戸建て住宅で主流の「全館空調(セントラル・エアコン)」は非常に電力を使います。1台がフル稼働すると約3,000W〜5,000W・ドライヤー3〜5台分もの電力を消費します。
そこで数百万台のエアコンの出力を少しだけ抑えたり、ローテーションで数分ずつ休ませたりして、1世帯あたり平均「1,000W(1kW)」の電力を削った場合以下のようになります。
1世帯 = 1kWの節電
100万世帯 = 100万kW(=1GW=原発1基分)の節電
300万世帯 = 300万kW(=3GW=原発3基分)の節電
たった1〜2度設定を変える、あるいは数分休ませるという「人間が気付かないレベルの小さな調整(1kW)」でも、それを数百万件同時に実行すると、発電所並みの巨大なインパクトになるのです。
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Google Nest Renewの実績
現在、Renew Homeは北米最大の住宅用VPPとして、「約3ギガワット(3,000MW・300万kW)」という規模の電力負荷を管理下に置いています。
これはなんと大型の原子力発電所 約3基分に相当します。
Google Nest Renewは新しい発電所を一つも建てることなく、一般家庭のエアコンを数度調整するだけで、原発3基分もの電力を「いつでも生み出せる(正確には削れる)」状態を作り上げたのです。
また前身のOhmConnect時代には「数十万世帯の停電を未然に防いだ」と評価されている実績があります。2020年に歴史的な猛暑がアメリカを襲い、カリフォルニア州では計画停電の危機に陥っていました。このとき、OhmConnectのユーザーネットワークを一斉に稼働させることで、約1GWh(ギガワットアワー)もの電力需要を削減し、結果的に停電を防ぐことができました。
参照:PR Newswire



企業の利益のためではなく、安心した生活をするためにもVPPは役立っているんだね
Google がVPPを必要とする理由
検索エンジンやYouTube、スマートフォンの開発などで知られる巨大IT企業GoogleがVPPに参入する真の狙いは自社データセンターの莫大な電力確保とインフラ防衛にあります。
Googleは現在、「2030年までに自社の全電力を24時間365日、カーボンフリー(脱炭素)エネルギーで賄う」という非常に高い目標を掲げています。
そして現在、この目標達成と事業の前に立ちはだかる最大の壁が、生成AIの爆発的な普及に伴うデータセンターの電力消費量の激増です。
AIの高度な情報処理には桁違いの電力が必要となるため、Googleは近年、地熱発電ベンチャー(Fervo Energy)への出資や、小型モジュール原子炉(SMR:次世代原発)からの電力購入契約を結ぶなど、なりふり構わず莫大なクリーンエネルギーを確保する動きを見せています。
つまり、Renew Homeを通じて家庭の無駄な電力を削り、電力網全体に余裕を持たせることは、「Googleが自社のAIインフラを死守するための極めて戦略的なビジネス防衛策」なのです。
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AIで電力不足は本当?動画10秒で生成でPC半日利用分の電力が必要
VPPで「自宅の家電利用状況」を操作されるプライバシーの不安
VPPには懸念点もあります。その一つがプライバシーへの懸念です。
エアコンの稼働データを外部で管理されることで、その家庭の生活パターンが管理側に筒抜けになるともいえます。
こうした不安に対し、Renew Home側も厳格なルールを用意しています。
①いつでも拒否できる(オプトアウト):
AIに自動で温度を変えられても、ユーザーが「今は暑いから嫌だ」と手動で温度を戻せば、いつでもコントロールを取り返すことができ、強制力はありません。
②データの匿名化
取得した電力データは「節電の集計」には使いますが、厳格なデータ保護規則のもと、その家庭の生活情報をもとに広告を配信する、また情報を広告主に提供するなどの行為はできないというルールが設けられています。



VPPやDRはまだ新しい試みであり、今後参加者が増えていくかどうかは、企業がこういった利用者の不安にどれだけしっかりと対応していくのかによってかわっていくでしょう
日本でこの事例は活かせるのか?
Google Nest Renewのようなスマート家電主導のVPPは、日本市場においても今後急速に普及していく可能性が高いでしょう。スマートハウスやスマート家電、エコキュートなどVPPの対象となる機器がすでに普及しており、技術的にも十分な土壌があります。
日本での普及に対する課題
一方で、アメリカの住宅事情との違いから、日本での普及が進みにくいという見解もあります。
アメリカの戸建ては家全体を一つの装置で冷暖房する全館空調(セントラル・エアコン)が主流であり、壁のサーモスタットを一つ押さえるだけで多大な節電効果が得られます。しかし日本は部屋ごとの個別空調であり、メーカーも多岐にわたるため、これらをVPPとして束ねるにはメーカーの垣根を越えて機器を一元管理するプラットフォームの普及が必要です。
また、自分の生活データや家電の操作権を企業に委ねるというプライバシーに対する心理的な抵抗感引き続き課題となるでしょう。
日本での普及の緊急性
化石燃料への依存度が高い日本において、昨今の国際情勢や急激な円安、そして2026年現在のさらなる燃料価格の高騰は、企業活動から家計までを直撃しています。さらに、日本でも急増するAIデータセンターの電力需要により、夏の猛暑や冬の厳寒期には「電力供給の綱渡り」が常態化しつつあります。
今の高い電気代が「当たり前の値段」になり、停電のリスクも増える。このような切迫したエネルギー危機が日常生活を脅かすようになれば、消費者や企業担当者の価値観も急激に変化するかもしれません。
「プライバシーが少し心配」という懸念よりも、「AIにエアコンの温度を人間が気付かない程度に1度だけ自動調整してもらうことで、電気代が大幅に安くなり、社会の停電も防げる」という実利が優先され、VPPの必要性が急激に高まることは予想に堅くありません。
電気を作るだけでなく、すでにある家電を活用して「消費を賢く減らす(ネガワット)」仕組みは、もはや単なるエコ活動でもポイ活でもありません。 それは、燃料危機とAI時代の電力不足という課題から、私たちの生活とビジネスの基盤を守り抜くための現実的で強力なインフラ防衛策といえるでしょう。
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太陽光発電は環境にやさしいだけでなく、電気代の削減や補助金の活用といった、家計にもメリットのある選択肢です
しかし、
太陽光発電では、どんな家庭でも設置に向いているわけではありません。
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