VPP(仮想発電所)の海外事例③ドイツに学ぶエネルギーの自給自足

VPP海外事例_ドイツ

日本国内でも普及に向けた動きが加速しているVPP(仮想発電所)について、私たち「地球未来図」ではこれまで2回にわたりアメリカの先進事例を紹介してきました。

第1回は、業界最大手のSunrun社が手動する「販売店主導のVPP」、第2回ではGoogle社のスマートサーモスタットを活用した「DR(デマンドレスポンス)連動機器によるVPP」を紹介しています。

VPP(仮想発電所)の海外事例①アメリカの一般家庭に広がる理由

VPP(仮想発電所)の海外事例②グーグルが仕掛ける電力対策

このようなアメリカの市場の事例に続き、今回はヨーロッパにおけるVPPの事例を詳しく紹介していきたいと思います。

欧州におけるVPPの先進国といえば、まずドイツがあげられます。

日本では現在も国によるVPPの実証実験や資金投資が続いていますが、ドイツでは早くも2018年に主要な実証試験を完了させ、一般家庭が自由に参加できる民間主導の商用化に移行しています。

現在ドイツのVPPの最大手であり、民間主導のVPPの立役者でもあるsonnen(ゾンネン)社は現在家庭用VPPネットワークで、約250MWhもの調整電力を生み出す規模なっています。

解説

実は、日本の「再エネ賦課金」や「FIT(固定価格買取制度)」の仕組みは、ドイツの制度を参考に設計されています。

5〜10年遅れでドイツの仕組みが日本に入ってくる傾向を踏まえると、いま現在のドイツの動向は、日本の近い将来を映す鏡といえるでしょう。

また日本と同様に、ドイツもエネルギー資源の大半を海外に依存しています。

2010年代にドイツが歩んできたFITの価格下落、電気代の高騰、そしてそこから生まれた「VPPによるエネルギーの自給自足」という解決策の歴史は、これからの日本の制度変更や対策を考える際の重要な先行事例となるでしょう。

なお日本のVPP(仮想発電所)の基本的な仕組みや日本の最新動向を知ってから比較したいという方は、以下の記事も合わせてご覧ください。

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目次

日本とドイツのVPP市場を比較

ドイツのVPP市場は、規模でも着手の速さにおいても、日本を大きく先行しています。

【着手時期】

ドイツでは2000年代初頭からVPPの研究・開発が本格的にスタートし、2018年には主要な実証試験をすでに完了させています。一方、日本でVPPの実証試験が国主導で本格的に動き出したのは2016年ごろのことです。その後も実証段階が長く続いており、一般家庭が自由に参加できる民間主導の商用化という意味では、ドイツに対して少なくとも10年以上の遅れをとっているのが現状です。

【規模】

現在、日本国内のVPPプロジェクトは国や自治体が主導するものが多く、個々のプロジェクトの規模は数MW〜数十MWにとどまっています。これに対しドイツでは、民間企業が主導する家庭用VPPネットワークがすでに約250MWhの調整電力を生み出す規模にまで成長しています。

政府主導の実証実験に頼り続けるのではなく、民間のエネルギー事業者が市場の中で競い合いながら自律的に拡大してきたという点が、日本との最も大きな違いといえるでしょう。 

ドイツのエネルギー市場

ドイツにおいて家庭用蓄電池を中心としたVPPが急速に普及した背景には、日本のお手本となった固定価格買取制度(FIT)と、資源を輸入に頼っていたことで直面したエネルギー危機による電気代の高騰があります。

①ドイツのFIT制度の推移

日本のFIT制度のモデルとなったドイツの再生可能エネルギー法(EEG)は、すでに2000年に施行されていました。当初、一般家庭向け(出力30kW以下)の太陽光の買取価格は50.62ユーロセント/kWh(約50.36円・1€=99.5円計算)という高い水準に設定され、再生可能エネルギーの導入量を増加させる基盤が作られました。

さらに2004年には法律の大改正が行われ、住宅の屋根や外壁に太陽光パネルを設置する一般家庭に対して「屋根上設置ボーナス」と呼ばれる上乗せ価格が支給される優遇措置が導入されました。この強力な後押しにより、2004年の買取価格は歴史的な最高値である57.40ユーロセント/kWh(約77.37円・1€=134.8円計算に達し、ドイツ国内で爆発的な太陽光の設置ブームが巻き起こりました。

出典:https://www.sonnenplaner.com/aktuelle_einspeiseverguetung.html 
ドイツの売電価格は年内でも変動があるが、グラフでは各年の「1月1日時点」家庭用向け区分の買取価格を代表値として作成

ユーロセント=100分の1ユーロ
ドイツを含めたユーロ圏内では、Cent(セント)を補助通貨として使います。1€=185円の場合、1セントは1.85円となります。日本円の換算額は、その時の為替レートによって大きく変わります。今回は説明をより分かりやすくするため、グラフは€のまま、文章内では、当時の為替レートを基準とした目安の金額を記載しています。(為替参考 https://ecodb.net/exchange/eur_jpy.html)

読者

発電した電気を安く売るよりも、蓄電池に貯めて自分で使う方が経済的メリットが大きいのは、まさに今の日本と同じだね。

②ドイツの電気代の推移

さらにこの流れを決定づけたのが、世界トップクラスに高額となったドイツの電気料金です。

ドイツでは2000年から、再エネの買い取り費用を国民で分担する「EEG賦課金」、つまり日本の再生可能エネルギー法賦課金が電気代に上乗せされていました。

2010年代後半にはこの再エネ賦課金が電気代全体の約4分の1を占めるまでになったことで、ドイツの電気代はすでに1kWhあたり30ユーロセントを超える世界最高水準に達していました。

出典:https://www.stromauskunft.de/strompreise/strompreis-entwicklung/
解説

2021年の32.84ユーロセント/kWhは約42.49円(1€=129.89円計算)にあたります。

そこへ追い打ちをかけるように、2022年のロシアによるウクライナ侵攻を端に発した欧州のエネルギー危機が直撃しました。ドイツは日本同様に化石燃料などのエネルギー資源の多くを海外からの輸入に依存しているため、資源がそれまで通り入手できなくなったことで、家庭の光熱費にも大きな影響を及ぼししました。

この時、ドイツ政府は国民負担を軽減するために2022年7月にEEG賦課金を完全に廃止し、ゼロにする非常措置を取りました。それ以降、2026年の現在EEG賦課金は復活していません。

しかし、残念なことにそれを遥かに上回る燃料費の高騰が続き、グラフの通り電気代は今も下がっていません。

2022年の危機の瞬間には過去最高となる47.27ユーロセント/kWhまで高騰しました。これを当時の為替レート(1ユーロ=約138円換算)で日本円に直すと、1kWhあたり「約65円」という驚くべき高値です。同時期の日本でも電気代の値上げが大きなニュースになっていましたが、その時の日本の平均的な電気代だった1kWhあたり約34円と比較しても、およそ2倍に匹敵します。

2025年にはわずかに落ち着いたものの、ドイツでは10年間で全体の電気代が34%も上昇したという深刻な事実を示しています。

読者

エネルギー資源を輸入に頼っている日本にとっては他人事ではない話だね

なお、国際エネルギー機関の発表では、2023年の1次エネルギー自給率はドイツが33.3%、日本は15.3%となっています 

解説

しかし、VPPを導入している家庭ではこのような電気代の高騰の直撃はうけていません。VPPを導入した家庭がどのように電気代を節約できたのか、ドイツの最大手VPP事業者の事例とともに見ていきましょう。

ドイツの最大手VPP事業者・sonnen(ゾンネン)の事例

ここからは、ドイツのVPP市場の中でも最大手のひとつである「sonnen(ゾンネン)」の具体的な事例について解説していきます。

事例:sonnen社のVPPが広まったきっかけ

sonnen(ゾンネン)社は、2010年にドイツ・バイエルン州の小さな村で設立されたクリーンエネルギーベンチャーであり、国や地域の既存の電力会社ではありません。この会社は、太陽光パネルで発電した電気を効率よく貯める家庭用蓄電池「sonnenBatterie(ゾンネンバッテリー)」の開発・販売からスタートました。

sonnen社がVPPとして本格的に動き出したのは、2017年から2018年にかけてです。ドイツの大型送電網を担う大手送電事業者・TenneT(テネット)などと共同プロジェクトを開始したことが大きなきっかけとなりました。当時、急速に拡大する風力や太陽光などの再生可能エネルギーが、天候によって発電量が大きく変わり安定しない状態にありましたが、VPPを通して電力をバランスよく流すことで、送電線のパンクを防ぐことが可能になりました。

事例:sonnen社のVPPの実績

現在、sonnen社が運用するVPPはドイツ国内だけで25,000世帯以上の一般家庭が参加する、欧州最大規模の住宅用蓄電池ネットワークに成長しています。

同社がVPPプログラムを通じて供給・吸収できる蓄電池の総容量は「約250メガワット時(MWh)」に達しています。これは、従来の中規模なガス火力発電所がフル稼働した時の供給能力に匹敵、あるいはそれを上回る規模です。

この実績と信頼性が評価され、2018年末には家庭用蓄電池のネットワークとしては初めて、ドイツの国家電力市場(一次調整力市場)への参入許可を正式に取得しました。この結果としてsonnen社は、新しい火力発電所を追加することなく、一般家庭の力で国全体の電力網を24時間安定させることに成功しています。

参照:https://www.sonnen.de/ueber-sonnenhttps://www.sonnen.de/presse

事例:sonnen社のVPPのシステム

sonnen社の蓄電池を自宅に導入している住宅オーナーは、「sonnenCommunity」に加入するかどうかを選択することができます。

解説

加入しない選択はもちろんできますが、せっかくsonnen社の蓄電費をいれるなら、加入したほうがメリットが多いため、多くの方が加入しているようです。

sonnen社はドイツ国内で太陽光の買取価格(FIT)が下落し、電気代が高騰していく市場の変化をいち早く捉え、単に機器を売るだけでなく、蓄電池の所有者同士をインターネットで繋ぐ独自の電力コミュニティ「sonnenCommunity(ゾンネンコミュニティ)」というビジネスモデルを世界で初めて作りました。

仕組みはこうです。

加入したユーザーにとって、日常的にスマホを操作したり、手動で設定を切り替えたりするなどの作業は一切必要ありません。sonnen社が開発したAI搭載のソフトウェアが、翌日の天気予報や過去の家庭内での消費パターンを分析し、蓄電池を全自動で遠隔制御します。

たとえば、昼間に太陽光の電気が余っていれば自動で蓄電池に貯め、夕方から夜間にかけて地域の電力網が逼迫すると、自動的に電力を送り出します。万が一の災害や停電に備えて、「ユーザーの生活に必要な最低限の電力(容量の20%など)は常に蓄電池内に温存する」という安全機能がシステムにあらかじめ組み込まれており、利用者の快適な生活と安心を守りながら参加できる仕組みになっています。

事例:sonnen社のVPPの報酬(インセンティブ)

コミュニティに参加する一般家庭のユーザーには、強力な金銭的メリット(インセンティブ)が用意されています。

sonnen社はVPP事業者であると同時に、自ら「小売電気事業者(電力会社)」の機能も兼ね備えているため、非常にシンプルなプランを提供でき、これが同社の人気につながっています。

コミュニティ加入者は独自の「sonnenFlat(ゾンネンフラット)」などの専用電力プランを契約することができ、VPPの電力網制御に協力する対価として、日常の電気代の基本料金や従量料金が実質ゼロ、あるいは大幅な割引になる還元を受けられます。さらに、国や地域への貢献度(充放電の回数や電力量)に応じた利益の分配金が、継続的にユーザーへ支払われる仕組みです。

事例:sonnen社のVPPを付けた家と付けていない家の電気代の違い

国全体の電気代が高騰していると聞くと「VPPを導入したところで、電気代の負担は避けられないのではないか」思った方もいるかもしれません。

しかしsonnenの蓄電池を搭載し、sonnenFlat(ゾンネンフラット)に契約した場合、電気代は大きく削減できるそうです。

1. 電気の自給率が「約70〜80%」になる

通常、太陽光パネルの設置だけだと夜間は電気を買うしかないため、自給率は約30%に留まります。(太陽光パネルがなければもちろん自給率は0%です。)しかし、蓄電池を導入してAIが充放電を賢く管理することで、家庭の電気の約70〜80%を「自家発電」・つまり無料でまかなえるようになります。

このため、高騰した電気代での電気購入は「残り20〜30%分」にまで激減します。

2. 残りの20%の電気代を「VPPの報酬」で相殺する

どうしても自給できずに電力網から買わなければならない残りの20%~30%の電気代については、sonnen社はVPPに参加してもらう対価(充放電の遠隔制御への協力報酬)として、「無料電力量(Freistrommenge)」という枠をユーザーに毎年プレゼントしています。

さらに、国からの高額な補助金や調整力市場からの分配金として「年間100ユーロ(約1万8,500円)のキャッシュバック」なども受け取ることができます。

解説

電力会社からの購入を全くゼロにはできませんが、限りなくゼロに近くすることで、多くのドイツの家庭が2022年の電気代高騰を乗り切っています。

ドイツとアメリカのVPP構造の決定的な違い

ドイツの事例は世界初の画期的な事例をして知られていますが、アメリカのVPPとどう違うのでしょうか?

その決定的な違いは、アメリカが電力を集めて大手電力会社に売るビジネスモデルのVPPであるのに対し、ドイツでは、集めた電力は直接一般家庭に送られることで、民間企業のコミュニティのなかだけで電力の自給自足を実現しているところです。

比較項目ドイツアメリカ
VPP参加者一般家庭一般家庭
VPP参加者を集め、制御システムを提供する企業民間企業
sonnen社など
民間のベンチャー企業
Sunrun社など
集めた電気の販売先別の参加者(一般家庭)に直接送る地域の巨大な大手電力会社・政府の電力網
VPPの目的民間(一般家庭)同士のネットワークだけで電気を自給自足して完結させる大停電を防ぐために、大企業や政府のインフラを民間がサポートする
規模感25,000世帯以上
ネットワーク総容量:約250MWh (中規模の火力発電所並み)
106,000世帯以上
瞬間ピーク出力:最大375〜425MW (ドイツの約16倍の容量)

政府や巨大な電力会社に頼ることなく、民間企業が作ったシステムの上で、一般家庭同士が電力を融通し合って24時間365日の生活を完結させるという「エネルギーの完全な自給自足ネットワーク」を世界で初めて商業ベースで成立させたことで、sonnen社は世界的に業界のパイオニアと呼ばれています。

解説

2015年当時、大手エネルギーシンクタンクや欧州メディアは、sonnen社を「エネルギー業界のUber(ウーバー)」と呼び、電力会社を通さずに個人間で電力をシェアする世界初の商業プラットフォームとして大々的に報じられました。

資源の輸入に頼る日本がドイツの事例から学べる事

日本では、ドイツのsonnen社の事例のように民間企業が電力を完全に自給自足できる仕組みよりも、アメリカ式の民間企業と国、大手電力会社が一体となって取り組むVPPの拡大の方が今後の流れとしては自然です。

現在、日本の経済産業省が主導して整備を進めている「容量市場」や「需給調整市場」といった枠組みは、ドイツのようなシステムを目指しているのではなく、「真夏の猛暑や冬の寒波によって日本全体の電気が逼迫する瞬間に、全国の蓄電池から電力を回収して大規模停電を防ぐ」という、既存の送配電ネットワーク(旧一般電気事業者)を支えるための企業間取引です。

しかし、ドイツが直面した電気代の高騰やそしてVPPによって、電力を分け合い電気代の高騰をある程度退けたという事実は見逃せません。

VPPの実証試験の完了・システムの整備・VPPに対応できる蓄電池システムの普及は電気の価格と供給の安定のために欠かせないものになっているのです。

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