近年、家の購入や新築に、省エネ効果のあるZEH住宅が注目されてきています。
しかし、ZEH住宅を検討しているけども、ZEHと認められるには具体的に何が必要なのか分からない方が多いのではないでしょうか。
太陽光発電を導入したほうがいいのか、どのくらい省エネルギーにすればいいのかなど、具体的な基準がわからなくて悩んでいる方に向けて、この記事ではZEH基準をわかりやすく解説します。
ZEHの種類や補助金なども詳しく解説しているため、ZEH住宅を検討している方はぜひ参考にしてください。
- ZEHを実現するための4つの基準
- ZEH住宅の種類とそれぞれの基準
- ZEH基準と省エネ基準の違い
- ZEHの補助金
ZEHとは?
ZEHとは「Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略称で、創エネ、省エネ、高断熱を実現した、年間の一次エネルギー消費量が実質ゼロ以下になる家のことです。
一次エネルギー消費量って何?
建物の中の冷暖房設備や換気設備、給湯設備、照明設備などで使われるエネルギー量から建物で作り出した再生可能エネルギー量を引いた値のことです。
ZEHではこれらの設備のエネルギー消費量をなるべく抑えながら、再生可能エネルギーを取り入れて一次エネルギー消費量ゼロ以下を目指します
ZEHは太陽光発電のような再生可能エネルギーを取り入れて創エネをしながら、冷暖房設備や空調設備などの機器を省エネ性能の高いものにして、エネルギー消費量を削減します。
使うエネルギー量を減らしながら、無料で使えるエネルギーを作り出すため、電気代が節約でき、CO2排出量の削減も可能です。
また、断熱材や断熱性能の高い窓ガラスを建物の資材として使うことで、夏は暑い空気が室内に入りにくくなり、冬は室内の暖かい空気が逃げにくくなります。
室内の温度が一定に保たれるため、冷暖房を使わなくても快適に過ごせる日が多くなるでしょう。
このように、ZEHは地球温暖化の原因となるCO2排出量を減らしながら電気代の節約ができる、地球にも家計にも優しい住宅といえます。
温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指すうえで、国はZEHを推奨しており、2030年にはZEH水準の省エネ住宅が新築の基準になる予定です。(参照1)
ZEHを実現するための4つの基準とは?
ZEHには以下の4つの基準があります。
- 強化外皮基準(UA値)が0.4~0.6以下
- 基準一次エネルギー消費量を20%以上削減
- 再生可能エネルギーの導入
- 基準一次エネルギー消費量が実質ゼロ以下
UA値や基準一次エネルギー消費量などの用語も含め、わかりやすく解説していきますね。
ZEH基準①:強化外皮基準(UA値)が0.4~0.6以下
ZEHは強化外皮基準(UA値)を0.4〜0.6以下にしなくてはいけません。UA値とは外皮(建物の壁や窓、屋根など)から熱がどれくらい逃げやすいかを表す数値です。
外皮から室外へ逃げる熱総量を、外皮の総面積で割ることで求められ、UA値が低いほど断熱性能が高くなります。
ZEHでは地域区分を8つに分け、以下の表のとおりにUA値の基準を定めています。
地域区分1、2 | 0.4以下 |
地域区分3 | 0.5以下 |
地域区分4~7 | 0.6以下 |
地域区分8 | なし |
地域区分は市区町村ごとに決められており、北海道の市区町村はすべて地域区分1〜3で、東京都23区は地域区分6です。
寒い地域ほど断熱性を高くする必要があるため、UA値の基準が厳しくなっています。
住んでいる地域がどの区分になっているかは、国土交通省の地域区分新旧表で確認できます。(参照2)
参照2:地域区分新旧表 国土交通省
ZEH基準②:基準一次エネルギー消費量を20%以上削減
ZEHは冷暖房設備、換気設備、給湯設備、照明設備の4項目で国が定めた基準一次エネルギー消費量を20%以上削減する必要があります。基準一次エネルギー消費量とは家1棟で1年間に使うと想定されるエネルギー量です。
床面積や地域によって基準が変わり、設備ごとに数値が計算されます。たとえば、床面積が広い大きな住宅であれば、一般的な住宅よりも多くのエネルギーを消費するため、基準一次エネルギー消費量は高めに設定されます。
住宅ごとの基準一次エネルギー消費量は一般財団法人住宅・建築 SDGs 推進センターが公開している計算プログラムで計算可能です。(参照3)
ZEH基準ではこの計算により算出される基準一次エネルギー消費量を20%以上削減しなくてはなりません。
そのため、省エネ性能の高い設備を導入したり、節電を意識したりと、消費するエネルギー量を効率的に削減する必要があります。
参照3:住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム 一般財団法人住宅・建築 SDGs 推進センター
ZEH基準③:再生可能エネルギーの導入
ZEHを実現するには再生可能エネルギーの導入も必要です。再生可能エネルギーとは太陽光や風力など自然に存在して枯渇することのないエネルギーで、ZEHでは太陽光が多く取り入れられています。
ZEH基準に再生可能エネルギーの種類や容量は定められていませんが、4つ目の基準を満たすためにもより多く、効率的に創エネできる太陽光パネルを導入するのがおすすめです。
太陽光パネルで作った電気は無料で使えるため、電気代の節約になります。また、余った電気は電力会社へ売電することで、収益も見込めます。
ただし、日射量によって太陽光発電の効率が変わるため、太陽光パネルを導入する際には建物の立地に注意してください。
一部の地域のみ、再生可能エネルギーを導入しなくてもZEHとして認められるパターンもありますが、建物の立地や構造に問題がなければ、積極的に太陽光パネルの設置を検討するのがおすすめですよ。
ZEH基準④:基準一次エネルギー消費量が実質ゼロ以下
最後のZEH基準は基準一次エネルギー消費量を実質ゼロ以下にすることです。
基準一次エネルギー消費量は家1棟で使うと想定される1年間のエネルギー量のことだったよね。実質ゼロ以下とはどのような意味なの?
実質ゼロ以下とは基準一次エネルギー消費量から建物で作り出した再生可能エネルギー量を引いた値がゼロ以下になることです。
消費するエネルギー量よりも多くエネルギーを作り出しているため、実質ゼロになります
家で作ったエネルギーだけで生活できる状態ってことなんだね
そのとおりです。ただし、ZEH基準では冷暖房設備、換気設備、給湯設備、照明設備の4項目の基準一次エネルギー消費量のみが対象になっており、その他の家電製品に使われるエネルギーは含まれていません。
実際には、建物のすべてのエネルギーを再生可能エネルギーで賄えず、光熱費が必ずゼロにはならないため注意してください
ZEH住宅は種類によって、基準一次エネルギー消費量の削減率が変わるため、次から詳しく説明していきますね。
ZEH住宅の種類と基準
ZEH住宅は大きく分けて以下の6種類あり、それぞれ基準が定められています。(参照4)
- ZEH
- ZEH+
- 次世代ZEH+
- Nearly ZEH
- Nearly ZEH+
- ZEH Oriented
国が定めている基準をもとに、詳しく解説していきます。
参照4:ZEH+の「外皮性能の更なる強化」の暫定措置の今後の取扱いについて 資源エネルギー庁
ZEHの基準
ZEHは先述した以下の4つのZEH基準を満たす住宅です。
- 強化外皮基準(UA値)が0.4~0.6以下
- 基準一次エネルギー消費量を20%以上削減
- 再生可能エネルギーの導入
- 基準一次エネルギー消費量が実質ゼロ以下
ZEH住宅の中で最もスタンダードなタイプで、2030年からは新築戸建住宅でZEHが標準になる予定です。
ZEH+の基準
ZEH+はZEHよりもさらに省エネ効果を高くした住宅で、基準が厳しくなっています。ZEHでは基準一次エネルギー消費量の削減率が20%以上であるのに対し、ZEH+では基準一次エネルギー消費量を25%以上削減しなくてはいけません。
また、以下の3要素から2つ以上満たす必要があります。
- 外皮性能のさらなる強化(UA値が地域区分1~2では0.3以下、地域区分3~4では0.4以下、地域区分5~7では0.5以下)
- HEMS(エネルギーの見える化と効率化が自動でできる機器)により太陽光発電設備等の発電量等を把握したうえで、住宅内の冷暖房、給湯設備などを制御可能であること
- 太陽光発電設備とEV(電気自動車)の連携もしくはV2H(EVと住宅間で電力で相互に電気を流せるようになる機器)の導入
断熱性能をより高くするか、HEMSやEV、V2Hなどの新たな機器の設置することがZEH+の要件です。
どの機器も太陽光発電と相性がよく、さらなる省エネ効果と電気代の節約が期待できます。太陽光パネルを効率よく使いたい方は、ZEH+を目指すのもおすすめです。
ただし、設備の購入にかかる費用が増えるため、予算に合わせて検討するとよいでしょう。
次世代ZEH+の基準
次世代ZEH+はZEH住宅の中で最も高性能なタイプで、国が実証実験を行っています。ZEH+の要件を満たしたうえで、以下の機器の中から1つ以上を導入する必要があります。
- 蓄電システム
- V2H
- 燃料電池
- 太陽熱利用温水システム
- 太陽光発電システム(10kW以上)
他のZEH住宅よりも設備費用がさらに増えますが、追加設備に対して国の補助金が使える場合もあるため、最新の省エネ住宅を目指したい方は検討してみてください。
Nearly ZEH(ニアリーゼッチ)の基準
Nearly ZEHはZEHに近づけた住宅のことで、ZEHよりも基準が緩和されています。ただし、寒冷地(地域区分1と2)や日射量の少ない地域、多雪地域に限って適用されるZEH住宅です。
主な基準は以下の4つです。
- 強化外皮基準(UA値)が0.4~0.6以下
- 基準一次エネルギー消費量を20%以上削減
- 再生可能エネルギーの導入
- 再生可能エネルギー等を含む省エネ率75%以上100%未満
ZEHは再生可能エネルギーを導入して基準一次エネルギー消費量を実質ゼロ以下(100%以上削減)にする必要がありますが、Nearly ZEHは75%以上削減できればZEH住宅として認められます。
太陽光発電を効率よく使うのが難しい地域では、まずはNearly ZEHを目指すのがよいでしょう。
Nearly ZEH+の基準
Nearly ZEH+はNearly ZEHよりも省エネ効果が高いZEH住宅で、基本一次エネルギー消費量を25%以上削減しなくてはいけません。
またZEH+と同様に以下の3要素から2つ以上満たす必要があります。
- 外皮性能のさらなる強化(UA値が地域区分1~2では0.3以下、地域区分3~4では0.4以下、地域区分5~7では0.5以下)
- HEMS(エネルギーの見える化と効率化が自動でできる機器)により太陽光発電設備等の発電量等を把握したうえで、住宅内の冷暖房、給湯設備などを制御可能であること
- 太陽光発電設備とEV(電気自動車)の連携もしくはV2H(EVと住宅間で電力で相互に電気を流せるようになる機器)の導入
より省エネ効果を高めたいが、ZEHを目指すのは難しい方はNearly ZEH+を検討するのがおすすめです。
ZEH Oriented(ゼッチオリエンテッド)の基準
ZEH Orientedは再生可能エネルギーを導入しなくてもよいZEH住宅です。都市部の狭小地の建物(平屋を除く)や多雪地域(垂直積雪量が100cm以上の地域)の建物のみ対象となります。
これらの地域は太陽光発電の導入が難しいため、以下の省エネ基準と外皮基準を満たせばZEH住宅として認められます。
- 強化外皮基準(UA値)が0.4~0.6以下
- 基準一次エネルギー消費量を20%以上削減
他のZEH住宅よりも基準が緩めですが、省エネ性能は低めです。そのため、ZEH Orientedの対象となる地域でも、より高い性能のZEH住宅を目指せないかを検討したほうがよいでしょう。
ZEH基準と省エネ基準の違いは?
ZEH基準と省エネ基準はどちらも住宅の省エネ性能の基準ですが、どのような違いがあるのかご存知でしょうか?
二つの基準の相違点を以下の表にまとめました。
ZEH基準 | 省エネ基準 | |
強化外皮基準(UA値) | 地域区分によって0.4~0.6以下 | 地域区分によって0.46~0.87以下 |
エネルギー消費量の削減 | 基準一次エネルギー消費量の20%を削減 | 設計一次エネルギー消費量(設計仕様で計算した値)が基準一次エネルギー消費量以下 |
再生可能エネルギー | 必要 | 不要 |
ZEH基準は省エネ基準よりもUA値とエネルギー消費量の削減の基準が厳しく設定されています。また、省エネ基準は太陽光発電のような再生可能エネルギーの導入が要件になっていませんが、ZEH基準では再生可能エネルギーを導入しなくてはいけません。
ZEH基準を満たした住宅は省エネ基準を満たした住宅よりも、より省エネ性能が高くなると覚えておきましょう。
日本では、2025年4月から新築住宅で省エネ基準適合が義務付けられ、2030年からはZEH水準の省エネ住宅が新築の基準になる予定です。(参照5)
参照5:省エネ基準適合義務化 国土交通省
ZEH基準を満たすと補助金はもらえる?
国や地方自治体には、ZEH基準を満たした住宅を対象にした補助金制度があり、ZEHの種類によって補助額が変わります。
2024年度の補助金制度を4つまとめましたので、以下の表から見ていきましょう。
行政機関 | 補助金の名称 | 補助金額 |
環境省・経済産業省 | 戸建住宅ZEH化等支援事業(参照6) | ZEH、Nearly ZEH、ZEH Orienteは55万円 ZEH+、Nearly ZEH+は100万円 ※追加する設備によって補助額を加算 |
国土交通省 | 子育てエコホーム支援事業(参照7) | ZEH水準住宅:80万円 ※以下の①かつ②に該当する場合は原則40万円 ①市街化調整区域 ②土砂災害警戒区域又は浸水想定区域 |
大阪府堺市 | 令和6年度 堺市ZEH支援事業補助金(参照8) | ZEH+:15万円 |
千葉県 | 千葉県ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス導入促進事業(参照9) | ZEH:100万円 ZEH Oriented:50万円 |
このように、ZEH住宅を購入したり建築したりする際には、国や地方自治体から補助金を受け取れます。
国と都道府県や市区町村の補助金を併用できる場合もあるため、ZEH住宅を検討している方は、住んでいる地域の地方自治体にも補助金制度がないかを確認したほうがよいです。
補助金は予算や申請期限が決まっており、予算額に達すると途中で補助金制度が終了したり、抽選になったりすることもあります。
また、補助金制度の内容は毎年変わる可能性があるため、補助金を活用したい方は早めに準備をしてください。
参照6:令和6年度環境省戸建ZEH 一般社団法人環境共創イニシアチブ
参照7:子育てエコホーム支援事業 国土交通省
参照8:堺市ZEH支援事業 堺市役所
参照9:千葉県ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス導入促進事業 千葉県
ZEH住宅で環境にやさしいエコな暮らしを送ろう
ZEHには創エネ、省エネ、高断熱に関係する4つの基準があり、すべてを満たすことで年間の一次エネルギー消費量を実質ゼロ以下にできます。
エネルギー消費量を削減すると、光熱費の節約になったり、CO2の排出量をへらしたりできるため、環境にも家計にもメリットがあります。
自宅の新築や購入を考えている方は、より高性能なZEH住宅を検討して、環境にやさしいエコな暮らしを送ってみてはいかがでしょうか。