カーボンニュートラルとは「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させて実質的にゼロにすること」です。現在、世界中でカーボンニュートラルを目指した取り組みが進んでいます。
日本では2050年に社会全体としてカーボンニュートラルの実現を目指しており、社会や企業だけでなく、私たち個人も環境に配慮した取り組みをしていくことが重要です。
しかし、具体的にカーボンニュートラルな社会に協力したくても、何をするべきかわからないですよね。
そのような方のために、カーボンニュートラルとは具体的にどうやって実現するのか、社会・企業・個人のそれぞれの役割とどのようなことができるのかを解説していきます。
国内、国外の具体的な事例を入れてわかりやすく説明していくため、最後まで読んでいただくことで、カーボンニュートラルについて詳しく理解でき、どのように協力していけば良いのかがわかりますよ。
- カーボンニュートラルとは何か
- カーボンニュートラルはなぜ必要なのか
- カーボンニュートラルを実現するために必要なこと
- カーボンニュートラルに向けての社会・企業・個人の役割と取り組み
- カーボンニュートラルの国内と海外での取り組み具体例
カーボンニュートラルとは?
カーボンニュートラルとは「CO2やメタンなどの温室効果ガスの排出量をできるだけ減らし、排出してしまった温室効果ガスを吸収することで、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させて実質的にゼロにすること」です。
私たちが生活していく中で、温室効果ガスの排出を完全に無くすことは難しいですが、削減はできます。また、植林をして植物の光合成によるCO2の吸収量を増やすことができます。
このように、温室効果ガスの排出量を減らして吸収量を増やし、温室効果ガスの「排出量-吸収量」をゼロにすることがカーボンニュートラルの考え方です。
カーボンニュートラルはなぜ必要?
カーボンニュートラルはなぜ必要なの?
温室効果ガスの排出による地球温暖化を抑える必要があるからです
世界の平均気温は2020年時点で、工業化以前(1850〜1900年)と比べ、既に約1.1℃上昇しています。このままだと更に平均気温が上昇していくことが予測されるでしょう。(参照1)
平均気温が上昇していくことで問題となるのは気候変動です。近年、異常気象による災害についてのニュースをよく聞くことはありませんか?
「記録的な豪雨」や「記録的な猛暑」など今までとは違う気候変動を感じることが多いのではないでしょうか。
気象庁のデータによると、2023年の日本の15観測地点での猛暑日(最高気温35℃以上)と真夏日(最高気温30℃以上)の平均日数は統計期間(1913年〜)の中で過去最多となりました。(参照2)
また、6月28日から7月16日までの総降水量は大分県、佐賀県、福岡県で1200ミリを超え、北海道地方、東北地方、山陰及び九州北部地方(山口県を含む)では7月の平年の月降水量の2倍を超えた地点がありました。(参照3)
これらのデータから分かるように、地球温暖化は地球環境に深刻な影響を与えています。そして、猛暑や豪雨が増えることで、私たちの生活にも被害を与えてしまいます。
そのため、地球温暖化から地球環境や私たちの生活を守るには、カーボンニュートラルを目指す必要があるのです。
近年、世界中でカーボンニュートラルに向けた取り組みが進められており、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げています。
参照1:カーボンニュートラルとは 環境省
参照2:気候変動監視レポート 気象庁
参照3:梅雨前線による大雨 気象庁
カーボンニュートラルの実現に必要なこと
カーボンニュートラルの実現には温室効果ガスであるCO2の排出量を減らしながら、CO2の吸収量を増やす必要があります。では、どのようにCO2の排出を減らしていけばいいのでしょうか。
例えば、以下のような方法があります。
- 省エネルギーを実行する
- 再生可能エネルギーを利用する
- 植林する
- 大気中のCO2を直接回収する
電気やガスなどのエネルギーを使ったり、作ったりするときにCO2を排出しています。そのため、CO2の排出量を減らすには、使うエネルギーを減らし、消費電力の少ない家電や機器を使うなどの省エネルギーを実行する必要があります。
また、太陽光やバイオマスなどのCO2を排出しない再生可能エネルギーを利用することでさらにCO2の排出量を抑えられるでしょう。
CO2の吸収量を増やすためには植林する必要があります。なぜなら、植物は光合成によってCO2を吸収してくれるからです。
ただし、植林だけではCO2の排出量と吸収量を同じにすることが難しいため、大気中のCO2を直接回収する技術に期待があつまっています。
現在、大気中のCO2を直接回収し地下に貯める「DACCS」や、回収したCO2を炭素資源として再利用する「カーボンリサイクル」などの技術開発が進められています。
これらの新しい技術と既存の方法を活用することで、カーボンニュートラルの実現に近づけるでしょう。
日本政府は以下の図のように、「2050年に社会全体としてカーボンニュートラルの実現を目指す」ことを目標に掲げています。(参照4)
データ参照:2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討 資源エネルギー庁(グラフ作成:地球未来図作成)
参照4:2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討 資源エネルギー庁
カーボンニュートラル・社会の3つの取り組み
社会全体としてカーボンニュートラルを実現するために、社会・企業・個人がそれぞれの役割を意識して、取り組むべきことがあります。ここからはそれぞれの役割と、具体的な取り組みについて紹介していきます。
社会は、個人レベルでは取り組めない技術開発を行ったり、個人や会社に再生エネルギーの導入のための資金や情報を提供したりすることが大きな役割です。
具体的には3つの取り組みがありますので、それぞれ詳しく見ていきましょう。
①CCS
CCSとは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略称で、発電所や工場などから排出されたCO2を他の気体と分離させて回収し、地中深くに貯める技術です。
2019年時点で電力と産業によるCO2排出量は約7.2億トンもあるため、カーボンニュートラルの実現にはこの技術を実用的にすることが非常に重要だと言えます。
日本では北海道苫小牧市で初めての実証実験が行われ、実用化を目指した研究開発が進んでいます。(参照5)
②カーボンリサイクル
カーボンリサイクルとはCO2を炭素資源として回収し、素材や燃料に再利用することです。例えば、CO2はコンクリートの材料やドライアイスとして再利用できます。
CCSのようにカーボンニュートラルの実現のために重要視されており、様々な企業や国の研究機関で実証実験が行われています。
2022年には広島県大崎上島町に国の研究機関である国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のカーボンリサイクル実証研究拠点が作られ、研究開発が進んでいます。(参照6)
③再生可能エネルギー導入支援
再生可能エネルギーの導入には多くの費用がかかります。また、再生可能エネルギーとはどのようなものなのかよく知らないという方も多いのではないでしょうか?
そのため、国や地方自治体は補助金制度や減税制度、教育活動によって個人や会社を支援をしています。
例えば、減税制度に「住宅ローン減税(控除)」があります。省エネ基準を満たす住宅を新築・購入した際に住宅ローンの借入(10年以上)をすると、税金の控除が受けられる制度です。(参照7)
教育活動だと環境省が運営しているWebサイトの「デコ活」があります。国や地方自治体と企業が協力して、個人に向けて情報やサービスの提供をしています。(参照8)
参照7:住宅ローン減税 国土交通省
参照8:デコ活 環境省
カーボンニュートラル・企業の取り組み事例3選
カーボンニュートラルに向けて、日本の企業ではどのような取り組みをしているかご存じでしょうか?
ここでは3つの日本の企業の取り組みを紹介します。
①エコトランスナビ(日本通運)
日本通運株式会社では「エコトランスナビ」という輸送によるCO2排出量を算出できるツールを提供しています。(参照9)
国内での各輸送手段(トラック、鉄道、船舶、航空など)のCO2排出量を確認できるため、どのルートで輸送を行えばCO2排出量が少なくなるかを調べられるツールです。
CO2の排出量を可視化することで、環境に優しい最適な輸送ルートを検討できるため、物流においてのCO2の削減に貢献しています。
参照9:日本通運
②Subaru
株式会社SUBARUでは群馬県にある大泉工場の敷地内に大規模な太陽光発電設備を導入しています。太陽光発電で作り出した電気を工場で使うことで、CO2排出量の削減に貢献しています。(参照10)
SUBARUはグループ全体のCO2排出量を2030年度までに2016年と比べて30%削減することを目標に掲げており、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを進めている企業です。
参照10:SUBARU
③イオン
イオン株式会社ではカーボンニュートラルの実現に向けて以下の3つの視点でCO2の排出量の削減に取り組んでいます。
- 店舗で排出するCO2等を総量でゼロにする
- 事業の過程で発生するCO2等をゼロにする努力を続ける
- すべてのお客さまとともに、脱炭素社会の実現に努める
店舗の屋上に太陽光パネルを設置することや卒FIT電力の買い取り強化などを行うことで、2030年までに店舗で使用しているエネルギーの50%を再生可能エネルギーに切り替えることを目指しています。
また、脱炭素型住宅やEVの購入を考えている個人に向けた商品や金融サービスを提供しており、家庭のCO2排出量を削減するためのサポートも行っています。
参照11:イオン
カーボンニュートラル・個人の取り組み具体例4選
カーボンニュートラルの実現には個人でできる取り組みがないかを考える必要があります。なぜなら、国民一人ひとりの衣食住や移動といったライフスタイルに起因する温室効果ガスの排出量が日本の全体の約6割を占めるという分析があるからです。
「大量生産・大量消費・大量廃棄」というライフスタイルは生活を便利で豊かにしているかもしれませんが、それと同時に、地球環境に悪影響を与えている可能性を考えなくてはいけません。
生活を便利で豊かにするだけでなく、温室効果ガスの排出量の削減や自然資源を大切にするなどの視点で個人がライフスタイルを変えていくことも重要です。
ここからはカーボンニュートラルの実現に向けて、個人でもできる取り組みの具体例を4つ紹介していきます。
①再エネの導入
自宅に太陽光パネルを設置すれば、再生可能エネルギーを導入できるため、CO2の排出量の削減に貢献できます。太陽光発電により、家庭内の電気の一部をまかなえるため節約にもなります。
車を使う方はガソリン車ではなくEV(電気自動車)に変えると、移動によるCO2の排出を減らせるため、EVの導入を考えてみることもおすすめです。
②省エネ
再エネの導入が難しい場合は、エネルギーの利用量を見直しましょう。エアコンの設定温度を変えたり、照明をLEDに変えたり、HEMSを導入して電気利用を最適化したりと、省エネになるよう行動することで、CO2の排出量の削減に貢献できます。
エネルギーの利用量を減らせば、電気代やガス代などの節約にもなりますよ。
③サステナブルな買い物
環境に配慮したサステナブルな商品やサービスを積極的に選ぶことで、CO2の削減につながります。
例えば、リサイクルできる素材を使った商品やパッケージ、包装を減らした商品を選んだり、食品を購入するときに量り売りを利用したりするとよいでしょう。
無駄な消費や廃棄を減らすことで、生産や廃棄過程で排出されるCO2の削減に貢献できるのです。
④自転車や徒歩での移動
車やバイクの代わりに自転車や徒歩で移動をすることで、CO2の排出を減らせます。家から駅までの移動や近所のお店への買い物などはなるべく自転車や徒歩で移動するよう意識しましょう。
また、仕事においては職場までの移動をなくすためにリモートワークを積極的に活用することがおすすめです。
カーボンニュートラル・海外の取り組み具体例3選
ここまでは日本でのカーボンニュートラルへの取り組みについて紹介しました。では、海外ではどのような取り組みを行っているのでしょうか?
3つの海外の自治体や社会の事例について紹介していきます。
①ロンドン市
ロンドン市では市内の特定エリアを自動車で走行する場合、税金として1日12.5ポンド(約2500円)がかかります。ただし、排気ガスのない電気自動車などには税金はかかりません。(参照12)
そのため、市民は電車やバスを主に利用していましたが、これらの公共交通機関は運賃が高いため、徒歩や自転車の利用が年々増えています。
特に市内の主要道路は自転車専用レーンがあるため、車を使わずに安全かつ安く移動が可能です。
カーボンニュートラルだけでなく大気汚染や渋滞緩和のために作られた対策でしたが、2019〜2023年の間で80万トンものCO2の排出を削減しています。(参照13)
参照12:ADレポート「ロンドンにおける超低排出規制区域(Ultra Low Emission Zone)の拡大について」 Japan Local Government Centre
参照13:The Ultra Low Emission Zone(ULEZ) for London MAYOR OF LONDON
②マクドナルド社(アメリカ)
マクドナルド社は2030年までに2015年よりもレストランとオフィスに関連する温室効果ガスの排出量を36%削減することを目標に掲げています。
再生可能エネルギー、LED 照明、エネルギー管理システム、エネルギー効率の高い厨房機器などの分野へ投資して、温室効果ガスの排出を減らす取り組みをしています。
また、2019年以降はVPPA(再生可能エネルギーにより作られた電力ではなく、それに付随した環境価値を購入すること)により、太陽光発電や風力発電などの電力の環境価値を積極的に購入しているため、数年間で11700店舗分の電力によるCO2排出量を削減できる予定です。
参照14:Climate Action McDonald’s Corporation
③エビアン(フランス)
エビアンでは輸送、パッケージ、生産の3つにおいてCO2排出量を減らす取り組みをしています。
例えば、フランスでは鉄道輸送のCO2排出量がトラックの10分の1であるため、エビアンはボトルの約90%を工場から倉庫まで列車で輸送しています。物流チームに炭素計算機を装備していることも取り組みの1つです。
また、パッケージにおいては包装と製品寿命を考慮すると、リサイクルPET(ペットボトル) なら、バージンPETと比較してCO2排出量が30%低くなります。そのため、現在はボトル全体で平均44%のリサイクルPETを使用していて、2025年までには全てのボトルをリサイクルPETすることを目標としています。
ボトル詰めを行う工場では、 2012年から2022年の間に、ボトルあたりのエネルギー消費量は25%以上減少しました。これは、エネルギー消費量を監視し、継続的に改善するために毎日活動する専門チームによって管理される以下のプロジェクトにより実現しています。
- 2012年よりISO 50001認証を取得
- 新しい効率的な生産プロセスの導入
- エネルギー、廃棄物、水の消費量の削減や二酸化炭素排出量に関するスタッフへの研修
- エネルギー消費と最適化に関する定期的なレポート
参照15:Climate impact evian
カーボンニュートラルであなたにできること
地球温暖化から地球環境や私たちの生活を守るには、カーボンニュートラルを目指す必要があります。そして、カーボンニュートラルを実現するには社会・企業・個人がそれぞれの役割を意識し行動をしなくてはなりません。
社会や企業の様々な取り組みに対し、個人がより環境に配慮したものを選択していくことで、カーボンニュートラルへ近づくことができるでしょう。
そのため、私たち個人は正しい知識を学び、個人でできる取り組みはないのかを考えながら、ライフスタイルを変えていくことが重要です。
自宅に太陽光パネルを導入して電気を再生可能エネルギーに変えたり省エネを意識したりと、あなたにできることがないかを考えてみましょう。