デマンドレスポンスとは何かをご存じでしょうか。デマンドレスポンスとは簡単にいうと、電気の使用量の供給と需要のバランスをとる仕組みのことです。
電力は水などの資源と違い貯めることができません。そのため電気は必要に応じた分を生産し、供給しています。しかし、脱炭素推進に伴う再生可能エネルギーの普及により、電力量の変動が激しく電力需給バランスが取れないという事態が発生しています。デマンドレスポンスは、電気の需要側が供給状況に応じて賢く消費パターンを変化させることが可能なため、近年注目されています。
今回はデマンドレスポンスについて、仕組みから種類、そしてメリットからデメリット、事例までわかりやすく解説します。
デマンドレスポンスとは
デマンドレスポンスの仕組みについて基本的なことを解説していきますね。
デマンドレスポンスの仕組み
デマンドレスポンスとは、電力系統全体の需給や小売事業者の供給量確保のために状況に応じて電力使用量を調整することです。わかりやすくいうと、電気の利用者である私たちが電気を使う量や、時間をコントロールして電力需要のパターンを変化させバランスをとるということです。
デマンドレスポンスの仕組みには、「上げDR」と「下げDR」という2つの方法があります。(参照1)
上げDR(デマンドレスポンス)
上げDRとは、デマンドレスポンスにより電気の需要量を増やすことです。具体的には、再生可能エネルギーである太陽光発電などで需要を超えた電気が生産された場合、他に必要な設備に回したり、蓄電池に充電したりして吸収することです。
下げDR(デマンドレスポンス)
下げDRとは、デマンドレスポンスにより電気の需要量を減らすことをいいます。具体的には電気の需要がピークになるタイミングを見計らい設備の出力を落とし、需要と供給のバランスを取ることをいいます。
参照1:資源エネルギー庁
デマンドレスポンスが注目される理由
デマンドレスポンスは電力の供給安定性と経済性という両面から、新たな電力ネットワークとして注目されています。ここでは再生可能エネルギーの普及という観点から解説していきましょう。
再生可能エネルギーの普及

世界で再生可能エネルギーってどれくらい普及しているのかしら?



国際機関の分析によれば、世界の再生可能エネルギー発電設備の容量は2015年に約2,000GWまで増加し、最大容量の電源となりました。その後も、引き続き再生可能エネルギー発電設備の容量は増加しており、2022年には、約3,600GW程度にも上っています。(参照2)



そんなに?日本はどうなっているの?



日本では太陽光発電の伸びが著しく、2011年度0.4%から2022年度には9.2%まで増加しています。再生可能エネルギー全体では、2011年度10.4%から2022年度は21.7%に増加しています。また2030年度の電源構成においては、再生可能エネルギーの比率を36~38%まで向上することを目指しています。(参照3)このように再生可能エネルギーの導入は日本でも拡大しつつありますが、一方で問題もあります。



どんな問題があるのか教えて。



再生可能エネルギーは天候により発電量が変動します。そのため、天候によっては過剰に電力が生産されることもあれば、需要量に足りなくなることもあります。そのため変動しやすい天候と発電量にあわせた電力需給のコントロールが必要なのです。



なるほど!それでデマンドレスポンスが注目されているのね。
デマンドレスポンスの種類
ここではデマンドレスポンスの種類について解説していきます。
電気料金型デマンドレスポンス
従来の基本料金と定率の変動料金による電気料金ではなく、電気料金型デマンドレスポンスは、 需給バランスや卸電力市場の価格水準を基本として電気料金を設定を行います。
インセンティブ型デマンドレスポンス
インセンティブ型デマンドレスポンスは別名「ネガワット取引」とも呼ばれます。電力会社と消費者があらかじめ節電契約を行い、電力会社からの要望に合わせて節電することで実際に削減された電力量(kWh)に従った報酬が支払われる仕組みです。
デマンドレスポンスの手法
デマンドレスポンスの具体的な手法には以下のようなものがあります。
調整・停止(空調・照明等) | 給湯・空調・照明等の設備を調節、停止することで電力需要を抑制する手法 |
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生産計画の変更 | 生産設備を調節・停止を行い電力需要を抑制し、調節分を夜間等の需要に回すことで生産量を維持する手法 |
充電・放電(蓄電池等) | 蓄電池に充電した電気を下げDR依頼の時間帯に活用し電力供給を抑制し、上げDR依頼の時間帯は、蓄電池やEVに充電することで電力需要を創出する手法 |
デマンドレスポンスの5つのメリット
デマンドレスポンスには主に5つのメリットがあります。それぞれを詳しく解説していきます。
1.電力需給バランスの改善
電気の利用者が電力使用量を調整することで、電力供給の安定化が可能となります。また上げDRでは蓄電池へ充電し電気を蓄えることもできるため、いざというときの災害時に停電などのリスクを低減できます。
2.再生可能エネルギーを有効活用
デマンドレスポンスは、消費者が電力使用量を調整し、ピーク時の電力需要を抑制することが可能なため、再生可能エネルギーの変動を調節することができます。それにより再生可能エネルギーの安定化に貢献し、有効活用が期待できます。
3.脱炭素を促進し地球温暖化に貢献
再生可能エネルギーは火力発電と比較すると大幅に温室効果ガスを削減できます。デマンドレスポンスは再生可能エネルギーを有効活用することが可能なため、再生可能エネルギーの普及を拡大し、脱炭素にも大きく貢献します。
4.報酬を受け取れる
デマンドレスポンスは、電力会社の要請に応じて電気の使用量を削減したり、ピークシフトを行ったりする需要の調整を粉うことで報酬を得ることができます。報酬の形態は、節電量に応じたインセンティブや、電力料金の値引き、ポイント付与など、電力会社によってさまざまです。
5.自家発電・蓄電池を活用
デマンドレスポンスの一環として自家発電・蓄電池を活用できるというメリットがあります。例えば電力需給が逼迫した際には自家発電機の稼働したり、蓄電池に充電した電気を活用することで、電力会社からの供給電力量を減らしたりすることが可能です。
デマンドレスポンスのデメリットは?
デマンドレスポンスの現状の問題点としては電気の使用量を把握する、節電のための業務制限や時間調整、また設備投資などが必要である、という点が挙げられます。またそれらを実行しても確実な効果が得られるのかというと不透明なのが難しいところです。
例えば中小企業のオフィスビルでは、電力をどの設備にどれだけ使っているかが分からず、どの機器を調整すれば節電につながるのか判断が困難な場合があります。そうなるとスマートメーターなどの機器が必要になり、設備投資にコストもかかりますが経済的効果がすぐに表れるわけではありません。
デマンドレスポンスの施策や事例
ここからは実際のデマンドレスポンスの施策や事例を海外と国内にわけて解説していきます。
英国
英国は2035年の電力システムにおける二酸化炭素排出量ネットゼロに向けて、マイルストーンを設定しています。そのためデマンドレスポンスへの取り組みとして市場での柔軟性確保をより促進し、全エネルギーシステムの基本的な部分としてのデジタル化を推進しています。
また消費者には、自動化された製品やサービスをシームレスに提供するなど柔軟な取り組みを行っています。さらにデバイスやフレキシビリティサービスプロバイダー向けの適切な技術的、および規制の枠組みについて検討するなど、さまざまな施策を行っています。(参照4)
米国
米国のカリフォルニア州は、100%クリーンエネルギーの未来実現のため、デマンドレスポンス活用のアクションプランを策定しています。2016年にカリフォルニア州のデマンドレスポンスの未来を形成するための組織のビジョンと行動を調整するために、「DER Action Plan」を承認しました。
今後数年間のデマンドレスポンスのビジョンを示すことで、カリフォルニア州が温室効果ガス排出削減と電力会社の配電計画、投資、運用の改革に取り組むためのロードマップとしていきます。
また2022年にはが電力会社のインフラ計画を支援し、デマンドレスポンスが増加する将来を見据え、市場統合や顧客プログラムなどに関する手続き調整を改善するための、「Action Plan 2.0」を承認しています。(参照5)
オーストラリア
オーストラリアではデマンドレスポンス普及のため、さまざまな施策を実施しています。例えば電力システムおよびネットワークをサポートするサービスを提供したり、ネットワークや系統運用機関のデジタル新技術活用の支援をしたりしています。
ほかにも顧客に安全で信頼できる公正な価格の電力の供給、顧客のプライバシーやデータの保護。さらに顧客の意思決定を支援する明確で包括的な情報を利用可能とする枠組みの構築など、さまざまな取り組みを行っています。(参照6)
日本
日本ではデマンドレスポンスに向けて以下のような施策を掲げています。(参照7)
- 再エネ主力電源化に向けた系統整備
- 系統混雑への対応(既存系統の有効活用)
- 需給調整・系統安定化技術の高度化
- 遠隔分散型グリッドにおける再エネ比率向上
ここからは日本の企業におけるデマンドレスポンスの事例を具体的に紹介していきます。
九州電力株式会社
九州電力株式会社では、再生可能エネルギーの出力制御が予想される春や秋の日中に、需要を作る需要側の上げDRへの取り組みを家庭用と産業用で取り組んでいます。具体的な内容として、スマホアプリを使ったご家庭向け上げDRや、法人お客さまとの上げDRへの取り組み。そして2021年2月より、スマホアプリ「九電eco/キレイライフプラス」を活用したDRサービス実証に取り組み、2022年7月から正式なサービスとして提供しています。
2021年4月には九州電力送配電株式会社による再生可能エネルギー有効活用に向け、「自家発補給電力の特別措置」を設定し、予見性・要請機会の増加や託送料金の負担低減につながりました。それにより自家発停止・抑制による上げDRは、従来に比べ実施が容易となりました(参照8)
カゴメ株式会社
カゴメ株式会社は、太陽光発電などの再生可能エネルギーで生産した電気の社会全体での利用拡大を目指しています。そのため電気の供給過多による太陽光発電の出力抑制が想定される日および時間帯に、小売電気事業者等の要請に応じて日中の電気使用量を増やす上げ DRを、2025 年 4 月より茨城工場で開始しました。
この取り組みでは、小売電気事業者の株式会社グローバルエンジニアリングと電気取次事業者のREiVALUE(リアイバリュー)株式会社からの上げ DR要請に応じ、茨城工場のアイスビルダーを利用して、電力需要の調整を実施しています。蓄熱のタイミングを任意の時間に稼働できるように変更し、電力使用量の約 12%を日中に移行することを可能にしています。(参照9)
静岡ガス&パワー株式会社
静岡ガス&パワー株式会社では、デマンドレスポンスの取り組みとして、「SHIZGASアプリ」で、ガス・電気の料金と使用量を提供しています。電気の使用量は、1時間、1日、1カ月ごとの使用量が確認でき、過去の実績より当月の使用量と使用料金の予測値も提供します。
ガスや電気の使用量・料金が手軽に確認できる電気はスマートメーター機能を活用し、年間、月間、日次、1時間単位での使用量が確認可能です。さらに電気料金の予測や目標設定でたまったポイントは、商品やデジタルギフトなどに交換することができます。(参照10)
参照7:経済産業省
参照8:九州電力株式会社
参照9:カゴメ株式会社
参照10:経済産業省
デマンドレスポンスの展望
デマンドレスポンスには、新たなエネルギービジネスとしての可能性も期待されています。ここではデマンドレスポンスの展望について解説していきましょう。



デマンドレスポンスは「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」にとっても重要といわれています。



なんだか難しい名前だけど、それってどんなビジネスなの?



蓄電池などの分散型エネルギーリソースを複数集めてコントロールし、仮想の発電所(Virtual Power Plant)のように機能させることです。つまり、みんなの電気をかしこく使おうという次世代のエネルギービジネスです。



どんなメリットがあるの?



①電気の需要と供給をコントロールし、天候により変動する再生可能エネルギーを有効活用できます。また再生可能エネルギー導入の促進にも貢献します。
②分散型エネルギーリソースを活用することで、災害時にも電気を供給する等、電力システムのレジリエンス向上に貢献します。
③分散型エネルギーリソースからの電力を活用することで、大規模発電所の設備投資等を抑制し、経済的な効果のある電力システムを実現可能です。(参照11)



なるほど!デマンドレスポンスの仕組みはそのために大切な役割を果たすのね。
参照11:経済産業省
まとめ
再生可能エネルギーの普及に伴い注目されているデマンドレスポンスについて、わかりやすく解説しました。電気は私たちの生活に欠かせないものだからこそ、安定した需要と供給が望まれます。デマンドレスポンスは、電気の使用量の供給と需要のバランスを取る仕組みのため、新たなエネルギーネットワークとして、今後ますます拡大していくと考えられます。
私たち「地球未来図」では、“これからの環境問題”に向き合うための情報として、脱炭素・ネイチャーポジティブ、そして太陽光発電の知識をわかりやすく紹介しています。
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